2010年10月24日

尿管結石と女王様

尿管結石というと、しっこの出口近辺のあそこに石がはいりこんで暴れ、地獄の苦しみをするのであろうと恐怖する人類がほとんどと思われるがさにあらず。
腎臓でできた石っころが膀胱へ結ぶ管へポロリと落ちて、ポロリというといい響きだがさにあらず。
これはこれで激痛であって、歯痛、出産に並び称される痛みという。

「という」とか他人事みたいに言うなよ俺。

13日にこの欄で、腰がすごく痛い。乗り鉄は無理だ。などと書いたが、腰痛の原因はスペーシアではなく両毛線のおんぼろ車両のせいでもなく、ましてや乗れなかったりょうもう号のせいでもない。この尿管結石のせいだったのだ。

実は13日の朝も激痛で、出社を躊躇ったのだが、電車に乗ってこくりこくりしているうちに治ってしまった。

で、19日の朝5時頃。同じ痛みが左の腰に起きた。

この痛みの表現というのが小さい頃から非常に苦手で、小学4年生のある日。目にごみが入ってとれないような痛みがあって保健室へ行くと、
「ごろごろするの?」
って聞くから、
「ごろごろはしません。そもそも『ごろごろと』は何事であるか。雷でもあるまいし。意味が余には測りかねる」
と言い返して保健室を追い出されたこともある。
今思えば「ごろごろする」が「目にゴミが入ったとき」の表現であったのだ。

で、この腰の痛み。ギックリ腰やアレの励みすぎ、地下の暗い部屋に閉じ込められてKKK団のような頭巾をかぶった人に鞭打たれながら肉体労働をした際の腰痛など、さまざまな腰痛を経験した筆者であるが、これは肉体疲労からくるものではなく、内臓からくるもの。
との感覚を得たものの、だからといって、ここに例えば「ケクケクするような痛みであった」などと嘘を書く事ができない。

とにかく痛い。座っても痛い、立っても痛い、歩いても痛い、仰向けもうつ伏せも痛い、エロいことを考えていても痛い、何も悪いことしていないのに痛い。

13日のときのように会社に来ても痛みが引かない。むしろひどくなる。
なので会社近所のK段クリニックに行った。内科系の医者だ。

そこは病院だ。やっぱり。
「症状を書いてください」
「痛いです。腰です」
「腰痛でしたらほかの病院を紹介します」
「でなくて、内臓から来てると思うんです、これは」
「はあ、ではお待ちください」
「あの、痛いからきてるんです。耐えられないんです。待てないです」
というにもかかわらず、「はい」と言われそのまま待たされる。
3人の患者が待っている。こいつらより絶対俺が苦しいと思う。

ようやく俺の番。
いつから痛いのかどのへんが痛いのか、どう痛いのかなど聞かれる。
なにやらドイツ語で書き込んだうえに、辞書のようなものを調べ始める。
「痛いんです。まず、痛みをなんとかしてください」
「ああ、はい」
まだ、なんか書いている。「セデス無効」などと。さっき俺がそういったからだけどさ。もういいから。

さらに激痛に耐えながら5分ほど待つ。
点滴を受ける。「すごく強い痛み止め」とのこと。30分経過で点滴終了。
全く変わらず。
あの、痛いんですけど。全然変わらないんへど。へどもど。
起き上がると朦朧としている。強い薬だというのは分かる。
「はい、では検査します」
あのねえ。痛いって言ってんじゃん。
「でも」
でもじゃねえよ。
看護婦一旦退場。医者に聞いてきたらしく再登場で、
「はい、では検査します」
聞いてんのかコラ。
「でも原因を調べないと」
原因の前にこの苦しみをなんとかしてほしいのに。
しかたないのでよろめきながらついていく。

エコー検査。
例のあれである。暗き部屋にてうら若き看護婦の姉さんと2人きり。ぬるぬるとした液体を塗られるあれである。世のおっさん全てが、これだけを楽しみに健康診断を受けるといわれるあれである。終わったところでぬるぬるを拭き取ってくれるところなんて、完全に風俗の風情のあれである。
以前私は、このエコー検査の順番待ちをしていたところ、ヒゲづらの男性看護師に呼ばれたために暴れているおっさんを目撃したことがある。殺伐とした病院で唯一の潤いであるあれ。
何を言っているのやら分からない若人や女子のために似たような例を挙げると、美容院のシャンプー、歯医者のクリーニングがある。ちちがでかければ接触のチャンスさえある。
えっと、何の話だっけ、
そう、エコー検査。
しかも、看護婦さんがしれっと済ました美人である。健常者であれば自分のポール君が蠢かぬよう耐えるところだが、そんな場合ではない。
残念ながら全く楽しむどころではなかった。
「次は血液検査です」
しかもまた待たされる。
血液検査で血を吸いとられながら、さすがにぶちギレすると伝わったのか、次のレントゲンの待ち合いで最初の医者登場。
「大丈夫ですか」
「全然大丈夫じゃないです」
「腎臓結石の疑いがありますので、救急で近い病院の泌尿器科に行ってもらきます。すぐに紹介状を書きます」
エコー検査の結果を見た診立てのようだ。やるじゃねえか、あの美人。このクリニックには二度と来たくねえが、あいつにだけは会いに来てやってもいいぜ。
なんてことは全然思ってない。この時点でこの病気を俺は知らない。何だか凄いことになってきた、手術して入院か、入院1日いくら保障の特約付きのあの保険の証書はどこにしまってあったか、などと考えていた。
そう考えたので会社に荷物を取りに行く。といっても大事なのは携帯ぐらいだったのだが。
戻ってくると封筒を渡される。救急と書いてある。
救急車が来てつれていってくれるのだろうと、立っていると。
「近くですし、すぐ分かりますのでタクシーで行ってください」
行ってください。
てめえで勝手に行けということだ。
このあたりになると痛みはピークに来ている。脂汗が出る。
脂汗などここ最近、朝にちゃんと出ずに電車の中で我慢(うんこの話ね)ぐらいしかない。
痛みで脂汗など高校のときの盲腸以来か。
もう、びっこを引くぐらいの痛みに耐えながら、クリニックを出る。
反対方向なので道を渡る。
こういうときに限ってタクシーは来ないものだが、ほとんど待たずに空車が来る。
「東京T信病院」
「えっと、ここからだとどうやって行きますんですかね」
知らねえのかよ。近くの誰でも知っている病院だって言ってたぞK段クリニックのねえちゃんは。
幸い紹介状の封筒に地図が出ていたので渡す。
ふむふむ、ああ、などと言って走りだす。
てめえ、ここで俺が死んだら一生このタクシーに取り憑いてやるからな、
などというのは後で考えたことであって、そんな余裕は全然ない。
逓しん病院に到着する。お釣りをもらうのももどかしい。
「お客さん、つらそうですね。へへ」

へへってなんだよ。へへって。辛いよ。つらくていたいからてめえにカネ払ってここまで乗ってきたんだよ。へへってテメエ、ぶちころす、この石とれたらテメエの尿管に尿道に、管という管に3センチぐらいの石つめこんでやる。

というのも後で考えたことで、半笑いのタクシーを捨てて病院入り口に立っていたねえさんに、
「あの、紹介状が、救急で」
などとろれつの回らない口で案内を乞う。
「なんですと、ストレッチャーを持ってきたまえ、緊急だ、エマージェンシーじゃ」
つて、何事かとほかの病人が見守る中、ガラガラガラと処置室へ、
とはならない。
そこは病院だ。やっぱり。
「紹介状をお持ちの方の窓口はこちらです」
と、普通にスタスタと歩き出す。
だからさあ、死にそうに痛いんだってばよ。
その窓口も窓口で、
「初めてですか」
ってね。初めてだから紹介状持ってんだろうがよ。
「こちらにお書きください」
ってね、もうね、僕は字なんて今書きたくないのよ。
泣きたくなりながら自分でも読めないような何かを書きなぐって渡す。早く速く!

で、
「座ってお待ちください」


見ていると、なにやらもたくさと書類を処理したりなんだりかんだりくんだりしている。おまえそれ今必要か、俺をさっさと泌尿器科につれていくのがお前の仕事じゃないのか。その書類は俺の痛みとどちらが大事だこのやろう。

などと五分は待たされた。
出てきたねえちゃんにキレる。
「はやくしてくださいよ。痛いって言ってるじゃないですか」
「あの、泌尿器科へ」
「すぐ診てもらえるんでしょうね」
「連絡はいってますから。こちらです。あの、歩けますか」
歩けるかどうかの心配してんなら、書類の処理なんて後回しにしてつれていけよ。
「なにしても痛いんで歩けます」

泌尿器科ではさすがにあまり待たなかった。
ちゃきちゃきな感じの若い看護婦が、
「痛かったでしょう、坐薬とかしました?」
「点滴やったんですけど効かないです。痛いです」
そうしてようやく処置室のような部屋に連れていかれる。
「ちょっと、楽な格好して待っていてください」
「楽な格好なんでないです」
そう返すと看護婦ちょっとムっとする。すぐ何かを取りにいく。
戻ってくる。
「お尻をこっちに向けて出してください」
坐薬をやるようだ。もうどうにでもしてくれという気持ちなので尻を出す。
つるりと看護婦さんの指が入る。
はうっ
などと言う暇もない。
即座に。
「奥に入れます」と言うが早いか、看護婦さんの指がさらに奥へとずるりと入る。

これは、
プロの技だ。
それは肛門と直腸の構造を知り尽くした神の指だ。
などと感服しているが、痛みがすぐにひくわけではない。
「うつぶせで寝てください。(お尻は)出したままでいいですから」
いい年になって大事な何かを失って尻を出して泣いている図のように見えると困るので一応パンツとジーパンを引き上げてうつ伏せになる。
その部屋はエコー検査の部屋だったようで、違う部屋のベッドにうつされる。
だんだん痛みが引いていくのが分かる。うつらうつらする。
となりの処置室から声がする。
「おじいちゃん、この大きな傷跡はなんの手術の跡?」
なんだろう。気になる。
しかしおじいちゃんの声が聞こえない。固唾を飲んで見守る医者と看護婦の図が浮かぶ。
「千葉の」
ようやくおじいさんから発せられた言葉は地名。千葉で何があったのか。
傷跡を聞かれて地名を応えるおじいさんの壮絶な人生が想像されるが、そうやっているうちにまたうつらうつら。一時間以上は寝かせてくれただろうか。最初からこういう処置が欲しかった。
CTスキャンをとり、パソコンの画像を見せてもらう。お腹から股にかけての輪切りの画像が見える。
「はい、ここが左の腎臓、もう少し下に行くとほら」
白い玉っころが見える。
拡大して、矢印をあて計測すると3.74ミリと出ていた。
処置は。
水いっぱい飲んでおしっこしろ。痛くなったら坐薬入れろ。
という単純なものだった。自然に出てくるのを待つと。

そうしている間に、先程ほどではないが少し痛みがぶりかえしてくる。
もう1本坐薬を頼もうか。
いや、
今面している医者は俺より一回り若そうなメガネの細面のにいちゃんだ。こいつにはやられたくない。やられるなら先程の坐薬クイーン様にお願いしたいが、名前を知らない。

次はいつ来ればいいんでしょうか。
っつったら来月だって。
案外お気楽。
次回も痛いふりして坐薬女王様をご指名しようと思う。

3 件のコメント:

  1. おおぉ~~~っ、尿管結石の痛みはハンパないそうですから大変ですねえ。
    んで、尿管結石を過去4回ほど経験済みT氏より、「痛くなったら、ひたすらシャドーランニングかその場跳び」というアドバイス。
    どうぞお大事に。

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  2. 過去4回!!
    猛者ですなあ。再発率高いらしいっすね。
    じゃあ、女王様との再開率も高いってことで前向きに考えようw

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  3. こんばんは。

    悪いけどかなりウケました。

    わたしも尿管結石ベテランです。
    その後出産されましたか?
    わたしの場合は、激しいスイミングで
    出産が促されます。

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